ボイストレーニングコラム

ボイストレーニングに有効なストレッチとは?

ボイストレーニングといえば、基本的には喉で声を出すことで鍛えるイメージがあります。しかし実際には、発声というのは全身を使って行うものです。喉の声帯だけを無理して動かすと、声帯や喉にダメージを受けてしまいます。実はより効率的に声を出すために、ストレッチが有効であるというのはご存知でしょうか。今回は、ボイストレーニングに有効なストレッチについて解説します。

体を動かし、温めておくことで声を出しやすくなるって本当?

ストレッチといえば、「運動の前に行うもの」というイメージが強いのではないでしょうか。一見、ボイストレーニングとは関係ないように見えるかもしれません。しかし、声というのは体が温まっていなければそもそも充分に出にくいものです。歌う前、ストレッチをまったくしないでいると、身体が寒く固く凝り固まっています。そのままでは、声は出にくいままです。

体内を巡っている血液の流れを、ストレッチでよくしてあげることによって、赤血球の働きで身体全体に酸素が充分に行き渡ります。血行がよくなることによって、体温も上昇し、体も柔らかく動かしやすくなります。動かしやすく暖かくなれば、声も自然と出しやすくなります。

まず声帯や喉に関わりの深い部位(首・肩甲骨)をストレッチしよう

まずストレッチとは、筋肉を良好な状態に保つために、筋肉を引っ張って伸ばす行為を指します。声を出すということも運動と同じで、骨と筋肉を動かして可動性を得るものです。運動前に、筋肉の柔軟性を高めることによって関節可動域を高めるのと同じように、声をしっかりと出すためには、ストレッチによって柔軟性を高め、可動域を拡げることが必要です。

声というのは声帯を震わせて出すものです。まずは声帯と深い関わりを持つ部位から、ストレッチしていきましょう。それは「首」と「肩甲骨」です。

首のストレッチ方法

首は声帯がつながっている「舌骨」ともつながっている筋肉がたくさんあり、また呼吸運動に多いに関係する「鎖骨」ともつながっています。首のストレッチ方法としては、まずは首の前側から横側の順番で行います。

首の前側のストレッチは、腰に両手をあてるような姿勢になって、腰を反らさないように上を向きます。そのまま首の前側を心地いい程度で伸ばしてみましょう。ある程度伸ばしたら伸ばしながら頭を左右に振って、伸ばす方向を変えてみましょう。

首の横側は、両手を後ろ手に背中に組み、左手で右腕を掴み左側に引っ張りながら、左方向に首を倒し、首の右側を伸ばすようにします。しばらくやったら、逆方向も同じようにやりましょう。

肩甲骨のストレッチ方法

あまり知られていませんが、肩甲骨も舌骨とつながっています。また、鎖骨と同じく呼吸運動に大きく関わる部位で、呼吸の際は必ず動きます。もともと可動域の大きい骨なので、色々動かして柔軟性を高めましょう。

まずは肩甲骨を寄せてみましょう。両手を後ろ手に組み、そのまま徐々にゆっくりと左右から中央へ両方の肩甲骨を寄せていきましょう。その次は、肩甲骨を上に動かしましょう。これは頭の上で両手を組み、両手を、両腕をまっすぐ上にしっかり伸ばします。

いい感じにほぐれたなと感じたら、左右に動かしたり、上下に動かしたり、色々やってみましょう。

今度は呼吸に関わる部位(胸・脇腹)のストレッチをしよう

次はさらに範囲を広げて、呼吸運動に関わる部位に移ります。呼吸運動に関わるのは、肩甲骨だけでなく、心臓をもつ胸に付いている肋骨、肋骨につながる鎖骨なども密接に関わってきます。これらの骨につながる筋肉をストレッチでほぐすことで、呼吸しやすい体作りが可能になります。

胸のストレッチ方法

胸筋は腕を支点として、お腹・胸の中心・鎖骨の3方向に扇状に広がっているのが大きな特徴となっています。頭より高い位置の壁に手をつき、そのまま腕全体で支えるようにしながら胸筋をググっとゆっくり伸ばすような形でストレッチします。最初は片腕ずつ、最後に両手、いずれも無理はせずリラックスする程度に伸ばしましょう。

脇腹のストレッチ方法

脇腹も肋骨と密接している部位で、呼吸運動に大きな影響を与えている部位です。同時に、筋膜レベルで考えれば舌ともつながっています。意外に思った方も多いのではないでしょうか。

脇腹のストレッチは、自然な範囲で無理なく足を広げ(いわゆる休めの姿勢で)、そのまま体を横へ捻り、痛みを感じず気持ちいいなぁというくらいまで続けます。逆側も同じように、ゆっくり無理なく捻りましょう。

最後に、全身を支える部位(お尻・内腿・足首・ふくらはぎ)のストレッチで仕上げよう

ボイストレーニングには、全身の姿勢も大事になってきます。実はストレッチには、姿勢を適正に整える意味合いもあります。そのために、直接声とは関係なさそうな下半身のストレッチもちゃんとやっておくと、より声を出しやすい効果を期待できるのです。

姿勢のかなめは上半身を丸ごと支えている骨盤です。骨盤から背骨、頚椎へ至る一連の骨のラインを整え、その周りの筋肉や関節をほぐしておくために、まずはお尻と内股から、徐々にふくらはぎや足首のストレッチを行いましょう。

お尻のストレッチ方法

お尻をストレッチするには、仰向けに寝転がり、片方の足を立て、もう片方の足を膝の上に乗せる姿勢を取ります。息をゆっくりと吐きながら、立てた足の膝の下を掴み、ゆっくり胸部へ寄せるように動かします。あくまでも無理なく、痛みを感じない程度でOKです。逆側も同じように行いましょう。

内腿のストレッチ方法

内腿のストレッチは、地面にお尻をつけて座り、あぐらをかくようにしてから、片足を横に伸ばし、もう片方の足はそのまま曲げて楽にしておきます。伸ばしている足をなるべくお尻が浮かない範囲で、できる限り足の先が真横に来るように伸ばします。あくまで無理なく、伸びない場合は斜め方向でも構いません。

そのままの姿勢で、伸ばした足の方向に上半身を倒します。倒しながら大きく深呼吸を3回、ゆっくり時間をかけて行いましょう。片側が終わったら、逆方向も同じようにやりましょう。こうすると内腿だけでなく脇腹も伸ばせて合理的です。

足首とふくらはぎのストレッチ方法

立って歌うとき、身体を支える足首、ふくらはぎのストレッチも重要です。意外にも土踏まずの筋肉は、筋膜レベルでいえば舌ともつながっているのです。人体は不思議なもので、こうしたことからも声を出すにあたって全身のストレッチは欠かせないのです。

まずは座って足の裏に手を伸ばし、親指で土踏まず周辺の筋肉を揉んでほぐしましょう。足ツボマッサージのように強くやる必要はありません。軽く押す程度でOKです。足首やふくらはぎのストレッチはシンプルで、立って足のつま先を上に上げたりアキレス腱を伸ばしたりしましょう。こうすることで、足首もふくらはぎも同時に伸ばせます。

まとめ

以上、ボイストレーニングに有効なストレッチの方法について一通り説明してきました。声を出すというのは声帯だけを整えればいいのではなく、全身をくまなく使って行う運動だというのがわかっていただけたのではないでしょうか。声は楽器とよくいいますが、楽器となるのは声帯だけではなく、全身が楽器で、声は全身から出すものなのだと意識しましょう。

ボイストレーニングは決して「歌い方」だけを鍛えるトレーニングではありません。歌うのに適した全身の姿勢の矯正や、腹筋を中心とした全身の筋肉を鍛え、柔軟性、可動域を高めることも含めてのトレーニングなのです。そのため、ボイストレーニングを受ける前には必ずストレッチを行い、身体全体を万全の状態にしておきましょう。

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